君がいて、僕がいる。


「……あの」

険しい表情のまま歩き続ける圭介に話しかけてみるけど返事は帰ってこなくて、黙々と階段を上がって屋上を目指す。
その間、手の力が緩まれることもなく……


「あっつ。」

屋上についてすぐ、圭介がいつも通りな声でそう言った。
さっきまであんなにも険しい顔をしていたのに、その変化に私だけが追い付けない。


「あの……」

私はまたさっきと同じように、控えめに話しかけてみると、今度はいつも通りの優しい笑顔を私に返してくれた。


「座ろ?」

「あ、うん」


促され、とりあえず日陰に座る。
そんなことしたって暑いには変わりないんだけど、それでもやっぱりここが私は好きみたいだ。


「ごめんね、いきなり」

「え、ううん。それはいいんだけどどうしたの?」


いつもと違いすぎた圭介の行動が、不思議で仕方なくて…


「んー、嫉妬かな」

「えっ」


だけど圭介はいつも通り、さっぱりとそんなことを言う。

いつもいつも思うけど、この人な言葉は重みがない。サラッとしてる。
それが不快なわけではないんだけど、あまり感じたことない空気で、慣れるまでには少し時間がかかりそう。


「俺さー、昔はそんなことなかったんだけど
今は自分の彼女が他の男といるの、見たくないんだよね
トラウマになってんのかなー」

「えっ、トラウマ…?
なにかあったの?」

「んー、うん。ちょっとね」


"トラウマ"。
決して軽い言葉ではないのに、こんなにも軽くいってしまう圭介が、逆に心配になる。

普通ならもっともっと、苦しむはずなのに……


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