星屑の中、君の笑顔が輝いている。
第1章
人気者の黒崎くん
「古川さん、今年も行くんですか?」
会社の恒例行事の清掃作業中、軍手をつけた手の甲で、額の汗をポンポンと軍手に染み込ませながら後輩が聞いてきた。
私も同じ動作をし、『もちろん』と答える。
入社5年目のこの会社は、春になると、毎年会社近くの川辺を掃除することになっている。
その理由は、もう一度この川に蛍を戻そうというものだ。
保険の営業という私が苦手とする仕事の面接を受けたのも、仕事内容が気に入ったからではない。
この、蛍を戻すための清掃作業をしているという、会社の年間行事を見たからだ。
1年の中でたったの1日だけの作業。
この日を心待ちにして仕事をしている人は、会社の中できっと私だけだろう。
現に、私の目の前で汗だくで作業している後輩はすでに家に帰りたそうだ。
去年も、『明日が振替休日だったらいいのに』と、学生のようなことを言っていた。
もちろん、今年も同じことを嘆いていたけれど、私はただ笑うだけだった。
4月の第4日曜に掃除をするのだけれど、実は今までこの川で蛍を見たことがない。
今年こそは見られるかもと、”ある条件”が満たされたときに一人川辺に寄ってみるのだけど、やっぱりダメ。
都会では蛍を見ることは難しいのかな……。
私は、入社してから毎年、清掃作業の翌日の月曜日は有給をとってある場所に向かう。
6年前、”別れた友人”に会うため。
彼は、蛍のように、柔らかくて優しい表情で笑う人だった。
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