人魚の住む海
1.10歳の夏
〜今日はおそくなります。れいぞうこのカレーあっためて食べてね〜

お母さんからのいつもの置き手紙に私は背中からランドセルをはずしながら目を通す。

「またカレーか・・・」

まあ、おいしいからいいけどさ。

ため息をつきながら狭い部屋の小さな窓の外を見る。

今日の海は穏やかだった。


ここはとある海辺の町。私はお母さんと築20年そこらじゃきかないくらいボロボロの集合住宅に2人で住んでいた。

私のお父さんは私の小さい頃に病気で死んでしまって、お母さんが日中は海女さん(海に潜って貝とかひろったり海苔を乾かしたりとか)、夕方とか冬場は近所の水産加工工場で働いて生活してる。

生活はけして楽ではないけれど、私は不幸だと思ったことはなかった。だってそばに海があったから。海の蒼さを見ればどんな辛いことにも耐えられる気がしたから。
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