人魚の住む海
中休み。前の席の女の子が声をかけてきた。

「深瀬さん、私、永沢希美って言います。よろしくぅ♪」

「こちらこそ。今さ一ノ瀬くんにプール授業のこと聞いて軽くショック受けたんだけど・・・」

「あはは知らなかったの？ほんとイヤだよぉ。でもどうしてもやりたくないときは生理って言ってサボればいいんだよ」

希美とひとしきりプールの話題で盛り上がる。そこにパタパタと大きな足音を立てて小さな女の子が教室に入ってきた。

「あ、沙紀が来た」

希美がつぶやく。

「あーっ、転校生ちゃんタケルの隣の席なんだぁ」

沙紀と呼ばれた子は、一ノ瀬くんの席に手をついて私の顔をまじまじと見つめる。

「深瀬湊です。よろしくね」

「あっと、秋月沙紀です。湊ちゃん仲良くしてね」

沙紀は屈託のない笑顔を私に向ける。

「沙紀は一之瀬くんと付き合ってるんだよ」

希美が教えてくれた。胸が少しだけチクッと痛む。

「へぇ。一ノ瀬くんって初見で愛想っけない人かと思ったけど意外と隅におけないんだね」

胸のうちを悟られないようについ憎まれ口を叩いた。
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表紙・目次

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