人魚の住む海
さすがは水泳部。タケルは小さな男の子を抱えなんとか岸にたどり着いた。私も1人ならなんとか泳ぎきることができた。

「私、救命できるから!」

以前は見よう見まねだったけど、あれからちゃんと勉強したんだ。

習ったとおりに心臓マッサージを人工呼吸を施す。

男の子の顔に赤みが戻ってくる。

「もう大丈夫だからね」

私は声をかけた。そのうちその男の子の両親らしき男性と女性が走ってきた。

「ショウタ!!」

「起きたらいなくなってたからどこに行ったかと思っていたら1人で海に行ってたなんて!」

「助けていただいて本当にありがとうございます。ありがとうございます」

両親は物凄く丁寧に私たちに頭を下げた。

イエイエ、無事でよかったです。気にしないでください。

みたいなやり取りをする。

ショウタくんは意識を取り戻したものの一応病院に行くことになった。

連絡先を聞かれたが私もタケルも頑なに固辞をした。命が助かっただけで十分だ。

一通りバタバタして親子が去った後、私はふぅと息をつき

「お疲れだったね」とタケルを振り返ってドキッする。

タケルは私をじっと見ていた。

ぬれた薄茶の髪の間からゆるぎない目でまっすぐに私のことを見ていた。
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