ひみつのナナくん
ほんの数十秒の間だったのに…
と慌てて周りを見渡すけど、一般的な女子の平均身長と10cm弱の差がある私が見つけられるはずもなく。
ホワイトボードの目の前、密集した人に押されて、私はどんどんと流される。
苦手な人混みの中、それでもどうにか外に出ようともがくと、逆走状態の私の足が誰かにつまづいて、体が傾く。
まるでコマ撮りの映画のようにゆっくりと視界に迫る地面に転ぶと覚悟して目をつぶった、その瞬間。
「あっ…ぶな…」
そのまま地面に向かうはずの体はなにか大きな物に抱きとめられるようにピタリと傾くのをやめた。
優しい石鹸の香りがふわっと鼻をくすぐる。
「…へ?」
あまりにいきなりのことに、なんだか間抜けな声が出てしまう。
どうにかこの状況を理解したいのに残念な頭では理解が追いつかず、身動きも取れない。
「…大丈夫?」
頭上からは柔らかくて暖かな男の人の声が降ってくる。
(男の…人?)
冷や汗と共にはっと我に返り、弾かれるように立ち上がって前を向く。