羊と虎

こちらに帰ってきてからは、車での移動でしかも殆どが運転手付きの凱が電車の乗り方を知っているとは考え難い。

その為に凱の家の最寄り駅で待ち合わせたのだから。

「えと、切符はこっちで・・・」

凱を券売機まで誘導して、購入方法を教えて乗り場まで連れて行く間、物珍しそうに辺りを見ていた。

「凱って電車に乗った事ありますか?」

電車を待つ間につい口をついて出てしまった質問だ。

「あぁ、何度か乗った事はある。まぁ随分前だが・・」

大学は留学しているからそれ以前に乗ったと考えても10年以上前だと分かった。

しかも何度か・・と言うのは片手か両手で数えられるだろうと杏奈は予想した。

『それじゃ珍しいよね』

そんな事を思いながら凱を見るが、先程より疲れたように見える。

『人ごみが苦手なのかな』

休日で込み合ったホームを見てそんな事を考えていると、電車が到着した。

凱を促しながら電車に乗ったが、休日だけに、車内も混雑していた。
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