羊と虎
「あ・・」
凱が何か言う前にタクシーを止める為に走り出し、その後姿を呆然と立ち尽くして見送ってしまった。
高熱で意識が混濁して来た凱は、立っているのも辛くなり、建物にもたれ掛かろうとふらつく足で移動する。
ドンッ!
あと少しで壁際という所で何かにぶつかり、ふら付いたが何とか倒れずに済んだ。
「おい、おっさん!ボーっと歩いてんじゃねぇよ!」
大きな怒鳴り声がする方には20代位の男たちが3人立っていた。
雰囲気を察して周りの人たちは避けて行く。
意識がハッキリしていない所為で、動きも緩慢になり、顔を上げる動作すらスローモーションのようだった。
「なんか言ったらどうなんだよ!」
暑さの所為かイラついた声が更に声を荒げながら凱に掴みかかった。
「やめて下さい!」
すんでの所で杏奈が割って入る。