羊と虎

「ふざけんな!」

見た目が可愛らしい杏奈が凄んでも、あまり効果が無い事は分かっていたが、今回は逆上させてしまったようだ。

倒れた男を跨いで杏奈と距離を縮めた二人目が、杏奈の腕を掴もうとしたが、それより早く杏奈が動いた。

「!」

伸びてきた腕を身を交わしながら掴んで引っ張り、態勢を崩した男の腹に膝蹴りを食らわす。

その背後にもう一人が覆い被さって来たので、右足を大きく後ろに引いた。

左足の膝を曲げると同時に両手を水平に伸ばし、相手の腕を外すと、左手で男の手首を掴み、同時に腰の左側を軸に少し腰を捻った。

右腕を男の腕につけたかと思うと、そのまま勢いをつけて投げた押した。

先程からチラチラと凱の様子を見ていた杏奈だが、フラフラしていて今にも倒れそうで、気が気では無かった。

近づき声を掛けようとした時、視線の先がザワついているのが分かった、増員か警察か・・どちらにしろ厄介だと思った杏奈は、素早く凱を背負い、人垣を掻き分けてタクシーに乗り込んだ。

杏奈の行動と共に、男たちも慌ててその場を去ったようだった。
< 112 / 320 >

この作品をシェア

pagetop