羊と虎

慌ててエレベーター付近から離れて、少し影になる柱まで移動したタイミングで、エレベーターの扉が開き誰か出てきた。

「あ、神宮寺取締役・・・」

エレベーターを降りた時点で、腕時計で時間を確認しているのが見えたので、慌てて身を乗り出した。

「神宮寺取締役!」

「あぁ、お疲れ・・・杏奈。呼び方が間違っているんじゃないか。」

声のする方を見た凱が無表情でそう言った。

『お、怒ってる?!』

「すみません・・・呼び慣れてないので・・・」

抑揚の無い声に機嫌を損ねたのではないかと思い、慌てて謝罪する。

「沢山呼んだら慣れるから」

フッと笑い歩き出すので、杏奈も慌てて後を追った。

凱の立ち止まった車に近づくと、ドアを開けてくれた。

「あ、ありがとうございます」

『こんな事されたの初めてだ』

お嬢様にでもなったようでドキドキしたが、それも一瞬、直ぐに車が気になりだした。
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