羊と虎

周りの視線には全く気付いていないようで、目の前のロールケーキを味わっていた。

そしてジャケットの胸ポケットから手帳を取り出し、何かを書きとめている。

「何書いてるの？」

不思議そうに杏奈が聞くと、少し照れくさそうに「自分で作る時のメモ」と小声で言った。

味や見た目をメモして、自宅で作ってみるらしい。

なんとも熱心だなと杏奈は思った。

「杏奈は甘いもの全くダメなの？」

「んー全くって事は無いかな。クッキーとか甘さ控えめの物なら食べられるから」

「ケーキも甘さ控えめだったら食べられるの？」

暫く考え込む。

「パイとか、タルトなら大丈夫・・・かな？」

最後に食べたのは何時だったか・・・と記憶を辿ってみたが、小学校の頃食べて以来ではないかと思った。