羊と虎

『苦手意識があるから、あえて手を出さなかったもんなぁ』

自分がどうして食べられなくなったのかも覚えていない。

『でも小さい時は食べてた筈なんだけど・・・』

「んな、杏奈」

「えっ!」

声を掛けられて居た事に気付いて顔を上げると、心配そうな凱の顔があった。

「難しい顔をしていたけど、大丈夫?」

「あ、何で、甘いものが食べられなくなったのか考えてたの」

「それで分かったの?」

「全く」

普通ならこれだけ苦手なのだから、理由が有る筈なのに、全く心当たりが無かったので、苦笑をもらす。

「そっか、どうしても食べないと困るものじゃ無かったら、食べられなくてもいいんじゃないかな」

「そうだね」と答えたが、甘いものを作るのも食べるのも好きな凱と、一緒に食べてみたいと思ってしまった。

お茶をした後、二人で持ち込んだ本を読んでいたのだが、杏奈がお手洗いに行っている間に女性が杏奈の席に座っていた。
< 155 / 320 >

この作品をシェア

pagetop