羊と虎
『苦手意識があるから、あえて手を出さなかったもんなぁ』
自分がどうして食べられなくなったのかも覚えていない。
『でも小さい時は食べてた筈なんだけど・・・』
「んな、杏奈」
「えっ!」
声を掛けられて居た事に気付いて顔を上げると、心配そうな凱の顔があった。
「難しい顔をしていたけど、大丈夫?」
「あ、何で、甘いものが食べられなくなったのか考えてたの」
「それで分かったの?」
「全く」
普通ならこれだけ苦手なのだから、理由が有る筈なのに、全く心当たりが無かったので、苦笑をもらす。
「そっか、どうしても食べないと困るものじゃ無かったら、食べられなくてもいいんじゃないかな」
「そうだね」と答えたが、甘いものを作るのも食べるのも好きな凱と、一緒に食べてみたいと思ってしまった。
お茶をした後、二人で持ち込んだ本を読んでいたのだが、杏奈がお手洗いに行っている間に女性が杏奈の席に座っていた。