羊と虎
子供の様に、眼下に見える街の明かりを眺める事に夢中になっているうちに、料理が運ばれて来た。
店を予約する際に、料理も注文していたようだ。
その食欲をそそる匂いに、現実に引き戻された。
「すみません。ぼうっとしてしまって」
今更ながら、夢中になって凱の存在を忘れてしまった自分が恥ずかしくなって俯いた。
「いや、気に入って貰えたらなそれでいい。
さぁ食事をしよう」
『私の気の済むまで放っておいてくれるなんて、優しいなぁ。
紫苑(しおん)だったら、直ぐ文句言うだろうし、怜苑(れおん)も意地の悪い顔をするんだろうなぁ』
二人の兄の顔を思い出して苦笑した。