羊と虎

これは、黒目を大きく見せたい為ではなく、緑の瞳を黒く見せる為だ。

杏奈の父親はドイツ人で瞳は翡翠色、髪は明るい茶色だ。

その為、杏奈の目の色も翡翠色で髪は少し黒めの栗色だった。

子供の頃は人形のようだともて囃(はや)されたが、杏奈の中身とのギャップが出てくると、距離をおかれるようになった。

特に、付き合った男の子からは、見た目と中身が違う事で詐欺だとまで言われた。

付き合う度に同じ理由で別れる事になるので、段々付き合うことを止めてしまい、大学に入る頃には自分を知らない土地で、一から猫を被って生きる事にした。

大学4年間で育てた猫のお陰で、現在は人間関係も良好な方だと思えた。

ただ、やりたかった仕事は捨てられず、就職活動を頑張ったのだが、どうしても見た目で判断されてしまい、SEの道は断念した。

投げやり気味に決めた今の会社でシステム課に配属願いを出したが、一年目は秘書課に回された。

秘書課で仕事をしつつ、システム課を希望していたら、運良く二年目にして配属された。

システム課では当初、何でこんな奴が入ってきたんだ?と首を傾げられたが、自分の能力を見せて認めさせ、今では仲間として可愛がって貰えるようになった。

そんな事を思い出し、ため息を一つ付き、朝の準備を続けた。
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