羊と虎
『これって、背伸びしてるのと変らないよね・・・』
履いた事の無い程高いピンヒールは、一歩一歩慎重に歩かないと、直ぐバランスを崩してしまう。
顔に出さないようにするのが精一杯だった。
「とても良くお似合いですよ」
鏡の前で自分の全身を見た杏奈は、言葉を失った。
『・・・別人だわ』
頭の先から足の先まで、整えられたその姿は大人の女性だった。
『よくもまぁこれだけ変えられるなぁ・・・特殊メイク?』
そんな事を思ってしまう程変っていた。
唯一胸は豊満には出来なかったらしい。
極一般的な胸では有るので、気にしない方がいいと自分に言い聞かせて、大きく開いた胸元を飾るネックレスを眺めた。
凱が来る前に、何とか歩く練習をと鏡を背にして歩き出した所で入り口に凱の姿を捉えた。