羊と虎

受付を済ませ、会場に入ると煌びやかな装飾と、色とりどりの美しいドレスを身に纏った女性達の優雅な姿が目に飛び込んで来た。

気後れして足が止まった杏奈の腰に手を沿えさりげなく促して中に進んで行く。

普段こういう場に出ない凱を目ざとく見つけ、我先にと女性達が集まって来た。

「神宮寺さん」

甘ったるい猫なで声で話してくる女性たちの目には、杏奈は見えていないようだ。

神宮寺家の次男なら、贅沢が出来て、尚且つ長男よりも責任が軽く楽が出来ると考えているようだ。

折角のチャンスを逃すまいと、必死でアピールしてくる。

「すまない、来たばかりで挨拶もまだで」

杏奈の腰に廻している手に少し力を入れて、杏奈共々その場を離れようとしたのだが、群がっている女性達が尚もまとわり付いて来て、凱の手が一瞬離れた。

ドンッ!そのタイミングで突き飛ばされ、体勢を崩してよろめく。

『ヤバイこける!』
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