羊と虎

後ろ側に傾いた姿勢を戻そうと何時ものように足に力を入れたのだが、バランスの悪いピンヒールでは上手く行かず、盛大に足を捻った。

「!!」

手が離れて一瞬の出来事だったので、直ぐに凱が杏奈の方を見た時には、姿勢はほぼ元に戻っていた。

「大丈夫か?」

周りの女性を牽制しながら、話しかけられたが、一瞬痛みで息が出来なかった。

「・・・大丈夫」

顔に出さないように微笑んで凱の横を歩いてみたが、痛みが酷く、歩みがゆっくりになる。

「杏奈?」

「淑女に見えるように、ゆっくり歩かないとね」

ふふふっと余裕の笑みを浮かべてみるが、凱は腑に落ちないようだった。

それでも、挨拶に向かう為に、歩き出すしかなかった。
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