羊と虎
「何をして・・」
「凱、彼女を送ってやれ」
「え?・・何を言っ」
理解出来ない凱が聞き返そうとしたが、その言葉を遮るように慧が続ける。
「足を痛めている。それもかなり酷いようだ」
「え?・・本当なの?杏奈」
聞かされた言葉に驚き、杏奈を見ると、バツが悪そうな顔をしていて、その顔で全てを理解した凱は、不機嫌な顔になった。
「どうして言ってくれなかったの?」
詰め寄る凱の様子に慌てる。
「が、凱、みんな見てる」
小声で話しているが回りは聞き耳を立てているので、声が聞こえてしまわないか気が気ではなかった。
「そんな事・・」
「言い合いしている場合か。早く連れて行け」
「分かりました」
そう言って杏奈に近づき、グイっと一気に抱き上げた。