羊と虎
「!?・・!!」
抱き上げられて一瞬驚いたが、不意に抱き上げられた所為で、足が動き痛みに顔を歪める。
「ゴメン!」
唇をかみ締め目をギュッと瞑ったまま、凱の上着を握り締め痛みに耐えているが、声を出さない。
「兄さん、来てすぐですが、失礼します」
軽く礼をして踵を返すと、女性達の視線を気にせずに、杏奈の顔が隠れるように自分の胸に顔を埋めるように抱き、歩き始める。
凱が歩くと人が左右に分かれて、出口まで一直線に道が出来、スムーズに会場を出る事が出来た。
受付で車の手配を頼み、近くにあるソファーに腰をかける。
「あの・・凱、私・・降りる」
真っ赤になりながら消え入るような声でそういう杏奈は、凱に横抱きされたままだ。
「恥ずかしいなら、顔を埋めておいて」
「下ろしてくれたら・・恥ずかしくない」
あまりの恥ずかしさと居た堪れなさに、涙が浮かんで来た。
「すぐ来るから」
あやすように、背中を摩られていると、受付の女性が、車が来た事をつげに来た。
ゆっくりと立ち上がり、腫れ物を触るように丁寧に車に乗り込んだ。