羊と虎
第二章
土曜日、杏奈は木の塀に囲まれた大きな屋敷の門の前に居た。
門の前に立つと庭が見え、飛び石が玄関まで続いている古い平屋の家が建っていた。
ここは会社とは別の県にある、杏奈の自宅だ。
学生時代の苦い経験により、地元で進学せずに他県に進学後、就職をした。
いい思い出の無い地元の友達とは連絡をとっていないので、どうしているのかもわからない。
「ただいま!」
飛び石から続く広い玄関では無く、その左手にあるもう一つのこぢんまりした扉を開けて中に入る。
大きく広い玄関は、道場に行く為のもので、その隣が自宅へ続く玄関だ。
誰も出迎えに来ないが、自宅だけに、勝手に上がっていく。
「おかえりなさい」
柔らかい声が聞こえて来たので、声のする方に歩いて良くと、台所に出た。