羊と虎

「ダメだよ。貸して」

タオルを取り上げられて、ドライヤーで髪を丁寧に乾かされると、気持ちよくて眠りそうになる。

『いやいや、さっきまで寝てたんだから』

髪が乾くとお姫様抱っこをされそうになり、慌てて断る。

「松葉杖が有るから!それで十分だから」

尚も食い下がろうとする凱を何とか言いくるめ、診察時に借りた松葉杖を持って来てもらった。

『私の心臓がもたない』

今まで以上に近い距離に、勝手に暴走する鼓動を沈めるのは大変だ。

『私ばっかりドキドキしてる』

出て行ったドアを見つめて盛大にため息をついた。
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