羊と虎
足音に気付いたらしく、背を向けて作業していた声の主が、手を止めて振返った。
「お母さんだけ?お兄ちゃん達は道場?」
「ええそうよ。お父さん今日は、仕事で出かけてるわ。」
杏奈の母が小鳥遊家では一番背が低く、父との身長差は40cm近くもあった。
54歳で童顔の母と父が並ぶと親子のように見える。
「あ、そうそう、これお土産」
そう言って紙袋から取り出したのは、慌てて買った事が想像出来る、駅構内で売っていそうな土産ものの饅頭だった。
凱とずっと一緒に居たので、買いに行く暇が無く、兄達に突っ込まれそうな土産になった。
「いつもありがとう。でも家に帰るのに、お土産は要らないわよ」
ふふふっと楽しそうに笑って、土産を受け取った。
その足で、仏間に供えに行く。