羊と虎
「あ、これ、小鳥遊の鞄です」
堂々とした態度に、逆に動じてしまった山葉が何とか鞄の存在を思い出し、慌てて後を追う。
凱達の姿が見えなくなるまで、二人ともその後姿を見送った。
「小鳥遊って、案外大物だな」
「ふっ、そうだな。良いが覚めたから、二件目行くか」
独り言のように呟いた鈴木に山葉も頷き、二人は連れ立って、夜の街に消えて行った。
凱の車の助手席に納まった杏奈は、そのまま意識を手放した。
その姿を少し切なそうに眺める凱。
「起きたら、忘れているんだろうな」
呟くようにそう言うと、軽くキスをして運転準備を始める。
前回杏奈を迎えに来た時も、途中で寝てしまった事を思い出す。
何時でも発進できる状態なのに、動く事が出来ず暫くハンドルにもたれ掛かっていたが、ため息を一つして発進した。