羊と虎

黒のパジャマ姿で眠っている事を考えて、何も無かったのでは?と思ったのも束の間。

自分が下着の上に凱のシャツを着ている事に気付き、何か有ったのではと思う。

『でも、凱にとって私は女じゃないんだから、何も無かったんだろうな』

居酒屋の途中から記憶が無い事に気付かず、今までの事を考えて結論を出す。

ズキンと胸を締め付ける痛みに耐えるようにギュッと目を瞑る。

『あぁでも、今回は椅子やソファーで寝かせてない分マシか・・・』

至近距離にある凱の寝顔を眺めて、自虐的に笑う。

そっと、ベッドから抜け出そうとすると、強い力で凱の胸に閉じ込められた。

「!?」

今度こそ、声を出すんじゃないかという程驚いたが、凱は目を覚ました様子は無く、無意識の行動らしい。

『ち、近いって!心臓が壊れるよ』

パジャマ越しに聞こえる規則正しい心音と、頭上から聞こえる凱の微かな寝息とは反対に、杏奈の鼓動は暴走し、息苦しく、荒い息になる。

『ダメ、起きちゃう!』

出来るだけ息を吐く回数を少なく・・・何て思っていると段々酸欠に落ちる。

もう無理だと思った瞬間、凱の胸を押していた。
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