羊と虎

「ん・・・」

グイっと押された所為で、腕が離れて隙間が出来、やっとまともな呼吸が出来た。

「おはよう。杏奈」

さっき胸を押した所為で起きてしまった凱が、色気たっぷりに挨拶してきた。

「お、おはよう!凱」

動揺してしまい、挨拶以外何も浮かばない。

「昨日は杏奈、情熱的だったのに」

フッと笑う顔は、仕事用でもオフでも無く、杏奈を混乱させる。

「あ、あの、私、昨日凱に・・・何をした?」

先程までの恥ずかしさは無くなり、記憶の無い部分の出来事が気になり出した。

「やっぱり覚えてない?」

「う・・居酒屋を何時出たのかもあやふやで・・・」

― 毎回お酒は飲まないぞ! ― と誓うのに、何故かこのような残念な結果になってしまう。

「そうなんだ。覚えてないなんて残念だ。」

杏奈の顎をとって自分の方を向かせると、額に口付けた。
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