羊と虎

「お父さん、私明日も稽古あるから・・・」

「一本くらい大丈夫だろ?」

「直ぐ酔っちゃうからなぁ」

「綾子(あやこ)さんに似て可愛いなぁ」

黙っていればロマンスグレーのイケメンなのに、母の事となると締りの無い顔する。

その様子を見て苦笑しつつ、缶ビールを受け取って、口をつける。

『あぁやっぱり稽古の後のビールは美味しいなぁ。』

「誰か気になる人は出来たかい?」

いきなりの台詞に、ビールを吹きこぼしそうになった。

『それが目的か・・・。』

「残念ながら、空手より好きなものは無いなぁ」

「そうか。まぁ、まだまだこれからだね」

「そうなのかな・・・素の私を好きになってくれる人、現れるかな」

「現れるよ。
杏奈の良さは僕が一番良く知っている。
それは外見じゃない、内面だよ。
僕も、綾子さんの内面を好きになったんだから。
あぁ、勿論外見も大好きだよ」

ふふふっとまた口元を緩ませて、幸せそうに笑う父を眩しそうにみる。
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