羊と虎

二人は自他共に認めるオシドリ夫婦で、それはもう他人が恥ずかしくなる位仲がいい。

こんな二人を見ていたからだろう、いつか自分もなどと夢にみてしまう。

調子に乗って、貰った缶ビールを飲み干した所為で、眠くなってしまい、気がつくと自分のベッドで目が覚めた。

話も途中から覚えていないし、眠った杏奈を蔵人が部屋まで運んでくれたようだ。

『お酒が弱い事だけが困りものだなぁ』

ドイツ人の父が酔った所を見たことが無い。

顔は赤くなるが、どれだけ飲んでも潰れてしまう事は無かった。

それは兄達に受け継がれたが、残念な事に杏奈には受け継がれなかった。

酒がめっぽう弱いのは母譲りだ。

母も少量の酒で直ぐに眠ってしまうので、父が居る時以外は酒を飲んではいけないというのが我が家の暗黙のルールだった。

『まぁお母さんお酒飲まないんだけどね』

そんな事を思い出しながら着替えを始める。

稽古出来る時間は限られていて、無駄には出来ない。
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