羊と虎
当日、スーツに身を包み、仕事用の凱でホテルに向う。
杏奈と一緒に出かける時は、自分で運転するが、今日は何時もの運転手が運転してくれている。
商談に向う時と変らない筈なのに、緊張して落ち着かない。
ホテルに到着して、指定されたラウンジに向うと、こちらを背にした髪の長い女性が座っているのが見えた。
だが、周りには誰も居ない。
『彼女だろうか?』
ラウンジを見渡すが、彼女以外に年の若い女性は居なかった。
『とにかく声を・・・しまった、名前を聞いてない』
興味が無かったので、秘書から見合い相手の事を全く聞いていない事に気付く。
顔すら知らないので、声をかける事にも躊躇う。