羊と虎

「神宮寺様、本日はお忙しい所お越し頂きありがとうございます。
私、麻生羽奈(あそうはな)と申します。」

凱の気配にいち早く立ち上がり、挨拶をして来たのは、艶やかな長い黒髪が印象的な女性だった。

とても艶やかではあるが、妖艶なイメージで体にぴったりの黒いドレスは、先日杏奈が来ていた物と似ていた。

ただし、彼女が着ると夜の蝶のように見える。

「お待たせしてすみません。神宮寺凱です」

二人は挨拶を交わして椅子に座る。

「ふふふ。そう、緊張されなくてもとって食べたりしませんわ」

何時も通り振舞っていた筈なのに、彼女に緊張している事を悟られ、内心ヒヤリとした。

「こんな美しい女性が目の前に居たら、緊張してしまいます」

悟られないようにゆったりと足を組んで緊張を解す。

「あら、嬉しいですわ」

『多分自分より若い筈なのに、隙が無い』

彼女を観察すればする程、年に似合わない貫禄がある事に気付く。
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