羊と虎
取締役室は、今までの行った事の無い重役の集まっている階にあり、一社員がふらりと行ける場所では無い。
そこに自分が行く事になるとは思ってもおらず、思わず声が大きくなった。
「あぁ、取締役が明日から仕事をする事になったんで、急遽指紋認証なんかの設定が必要になったんだ。
今日は誰も忙しいから、悪いが小鳥遊が行ってくれ」
「ほんとに、私で良いんですか?!」
「あぁ、パソコン自体の設定は鈴木がしたから、説明と細かな設定だけだ」
「はい、分かりました。では、何時から行ったらいいですか?」
「そうだな・・・。」
そう言って時計をチラリと見てから、内線で何処かに電話した後、振返って杏奈を見た。
「今、行けるか?この後30分程で出かけるそうだ」
「分かりました!」
慌てて席を立つと、「お前が行く事は伝えてあるから」と言われた。
いらないとは思うが一応工具も持って行った。