羊と虎
親会社は有名な大手企業だが、杏奈の勤めている会社は子会社で人数的にも少なめだ。
まぁそのお陰で、採用されたのだと杏奈も思う。
それでも人数は結構多いから、よく入れたものだとも思った。
重役階の入り口に秘書課があり、そこで取締役の部屋を教えて貰った。
秘書に教えられた部屋の前で深呼吸をしてからノックをする。
「失礼します。システム課の小鳥遊です」
「あぁ、聞いている。入って」
部屋の主らしき人のそっけないが、とても心地よい低い声音で、返事がきた。
ドアを開けて室内に入ると、手前に高そうなソファーとローテーブルが置いてあり、その向こうに重厚な机が置いてあった。
声の主を探して視線を彷徨わせると、壁際の本棚から本を取り出す人影が目に入った。
「指紋認証の手続きに参りました。」
そう言って、人影に向ってお辞儀をした。
「ありがとう。宜しく頼む」