羊と虎




「んな。杏奈」

「ん? !?」

自分を呼ぶ声に目を開けると、目の前に凱の顔がアップであった。

「ち、近い!近いです!!」

無意識に押しのけようとしかけて、慌てて止める。

『危ない!力いっぱい押しのけようとしちゃった』

前に出した手をどうしたら良いのか分からず、そのまま自分の顔を覆うようにしてしまった。

「具合が悪いのか?」

少し心配そうな色を含んだ声が響いてきた。

「あ、いや、全然そんな事無いです。」

醜態をさらした事が恥ずかしく、中々手を退けられなかった。

「すみません、ちょっと酔ったみたいです。」
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