羊と虎

設定を行う間、何故か取締役が杏奈の後ろに立ち、無表情で作業を眺めている。

『やり辛いんだけどなぁ・・・』

小さくため息を付いて作業をするが、相手が重役である事に加え、若くとても格好いいので気が散って仕方ない。

「あの、心配しなくても失敗しませんから」

「え?・・あぁ悪い。そんなつもりで見ていたわけじゃないんだ。
ただ、凄いな・・と思って」

「凄いな?」

「・・あぁ、実は、恥ずかしい事に、俺は機械音痴で、設定や使い方が分からないんだが、聞ける相手が居なくて・・・向こうでは秘書が全てしてくれていたんだが・・・」

視線を逸らしながら独り言のように呟く。

杏奈が話しやすかったようで、言った後「しまった」という顔をしていた。

「それは大変でしたね。取締役みたい仕事が出来る人は、周りも出来て当たり前って思ってるでしょうね。

私なんか、逆に出来ないって決め付けられちゃって・・あ、すみません!ベラベラ喋っちゃって」

「いや、君も見た目とのギャップに悩んでたんだな」

「何か親近感沸いちゃいますね・・・ってすみません!!」

「いや、嬉しいよ。・・・所で、君にお願いが有るんだが」

「はい?何でしょうか?」

自分のような下っ端の社員に頼みごとが有るとは思えず、杏奈は不思議そうな顔で取締役を見上げた。
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