羊と虎

「お待たせ、ゴメンネ遅くなって」

待ち合わせの店は、居酒屋のチェーン店で、店内で美優の名前を告げると、一番奥の目立たない席に通された。

会社から一駅離れていることと、道路から少し入った所にあるので、会社の人も見かける事が無く、気兼ねなく話せる場所だった。

「ううん。こっちこそ急に呼び出してゴメンネ」

会社用の野暮ったいメガネを外して、長い前髪をピンで留める美優は、同性の杏奈が見ても可愛らしかった。

「どうしたの?」

注文後すぐに気になったので聞いてみるが、中々口を開かない。

そのうちに、料理とビールが運ばれて来たので、乾杯をして食べ始めた。

「この前の大会、結果が5位だったんだよね」

苦笑しつつ、話題を変える。
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