羊と虎
困ったように視線を彷徨わせた姿を見て、機械音痴を思い出す。
「あぁ!。スマホ貸して頂けたら、勝手に設定します」
杏奈の言葉に素直にスマホを差し出し渡すと、杏奈は手馴れた様子であっという間に設定を終えてしまった。
「・・・」
スマホの画面をジッと見つめる凱に現状を察した。
「小鳥遊杏奈です。ちょっと読みにくいと思いますが」
「たかなし・・そう言えば聞いた事があったな。
俺は神宮寺凱(じんぐうじがい)だ」
納得したように画面から杏奈の方に顔を向ける。
「神宮寺取締役ですね」
「堅苦しいのは慣れていないから、凱と呼んでくれ」
「え!?取締役を呼び捨てにするなんて出来ません!」
焦って両手を前でブンブンと振って慌てる杏奈に、一瞬表情を崩したが、直ぐに表情を戻し、淡々と話し出す。
「アメリカでは凱と呼ばれていた、今更苗字で呼ばれても困る」
「じゃぁ・・凱さん?」
「凱だ」
「・・・・が、い」
「その間は?」
意地悪そうに口元に笑みを浮かべ杏奈を見る。