不良に恋した私 ~Is there love in the air?~
10、丸ごと全部抱きしめたい ~Is there love in the air?~
結局、丸山くんから、付き合おうという言葉はもらえなかった。
でも、次の日から、
私への丸山くんの態度が、一変した。

急にどうしたのだろうか。
昼のお弁当の時も、
移動教室の時も、
今日は朝からずっと、片時も離れることなく、私の隣で笑っていた。

いくら友達だと言い張っても、他からみたら、付き合い始めたようにしか見えないだろう。

恋人になれたようで嬉しかったけど、周りの女子の視線が少し痛かった。

わらないでもない。
女子から人気のあった丸山くんが、ある日突然こんなしょぼい女と仲良くしているのだ。
そりゃイジメたくもなるだろう。

でもイジメる隙もないくらい、ずっと丸山くんは私の近くに居た。

でも、さすがに女子トイレまでは無理だったようだ。


「あんた!理人くんの何!?」
女子トイレで先輩のお姉さま方に囲まれた。

「と、友達です」
付き合っていないのだから、それが妥当な答えだろうか。
「はぁ?なめてんの?友達ごときが、理人くんを独占してんじゃねーよ」
「さっさと理人くんに嫌われて、離れろよぉ」
バケツに入った水をかけられそうになった時、

「おーい、美弥ちゃんそこにいる~?」
っと、拓先輩の声が聞こえた。

その声にぎりぎりのところで先輩達の動きが止まった。
拓先輩が女子トイレに入ってきた。

「あっ、美弥ちゃん、見ーつけた」
拓先輩がトイレの奥の壁際に居た私に手を振った。

わざとらしく、拓先輩はたった今、先輩達の存在に気がついたかのように言った。
「あれ?五月ちゃん、佳代ちゃん、こんなところで何してんの?」
先輩達は言葉につまって、持っていたバケツを床に置いた。

「俺のお気に入り、いじめないでよ」
今の軽い感じの発言といい、先輩達を下の名前で呼んじゃうところとか、拓先輩のチャラさを全開に感じた。
でも、今はそれが少し助かった。

「おいで、美弥ちゃん」
拓先輩が優しく手招きしたので、私は先輩達の横を通り抜けて、拓先輩の方へ駆け寄った。

「大丈夫?美弥ちゃん」
「うん、ありがとう、なんとかギリギリ」
女子トイレにまで堂々と入ってこれるなんて、流石、拓先輩というかなんていうか。

「ところで、五月ちゃんと佳代ちゃんは、あのこと忘れちゃったの?」
拓先輩は今まで私が見たことない顔で、先輩達をにらみつけた。
「あれは……」
「うちらのせいじゃ……」
先輩達が急に暗い顔付きになった。

あのことというのは、どのことだろうか。
私が知らない丸山くんに関係することなのだろうか。

さっきまでチャラかった拓先輩の顔つきとは全然違った。
「思い出したんなら、……二度と、美弥ちゃんには手を出すな!」
ドスの聞いた拓先輩の言葉に先輩達がビクッと体を震わせた。

「わ、わかったわよ」
「もうしないから」
先輩達は逃げるように去っていった。


「拓先輩、思い出すって??あのことってなんですか??」
拓先輩は苦笑いしただけで、何も話してはくれなかった。

「そんなことより、理人が心配してる。早く理人のところへ戻りな。あと、理人には今あったこと……余計なことは言わないように」


教室の方へ私が走って行くと、心配そうに何かを探している丸山くんが居た。

私を見つけるとホッとした顔して駆け寄ってきた。

「何処行ってた?何かあったのか?」
「うんん。ごめん、トイレ行ってただけ」
ちょっと遅くはなったが、トイレ行ってただけはずなのに、あまりに心配する丸山くんに本当のことは言えなかった。

そういえば、拓先輩も余計なことは言わないようにって言ってたけど、どうしてなんだろうか。

丸山くんがこんなにも、私を心配する理由と何か関係があるのだろうか。
私の知らない丸山くんに関することが、解明されない限り、謎は解けそうにない。

拓先輩は何か知ってそうだっただけど、あの様子だと、聞いてもはぐらかされてしまいそうだ。
丸山くんの口から自然に聞けるのが一番いいのだが、そうもうまくはいかない。


その日の放課後。
私は女子更衣室で着替えをしていた。

試合も近くなってきたので、ちょっとだけ練習をやるようだ。


「ねぇ、美弥ちゃん、理人と付き合いだしたってホント?」
「なつみ先輩……。うまく話せないけど、正確には付き合ってはないんです」
そういえば幼なじみのなつみ先輩なら丸山くんのこと何か知っているかもしれない。
この前の話の続きもずっと気になっていた。

「美弥ちゃん気を付けなよ?」
「気を付けるって?何をですか?それに、その……この前言ってた、丸山くんがヤバイってどういう意味なのか教えて欲しいです!」
なつみ先輩は何も知らない私を気の毒に思ったのか、少しずつ話し始めた。
「ああ、あれね。……理人、一年の時の夏まで二個上の先輩と付き合ってたんだ」

丸山くんはカッコいいから彼女が居たっておかしくないけど、年上と聞いて、年下の私は複雑な気持ちになった。

「先輩の方から理人に告白して付き合いだしたらしいけど、ほら理人、本人は自覚してないけど、陰では人気あるでしょ? だから、その先輩、理人と付き合ってるせいで、周りからひどい嫌がらせにあってたの」

確かに、私も拓先輩が守ってくれなかったら、きっと酷い目にあっていただろう。

「先輩も何も言わないし、理人も何にも気がつかなかった。三年生だったから、同時に進路のことでも悩んでたみたいで、疲れちゃったんだろうね」
なつみ先輩は言いにくそうに、言葉をそこでいったん切った。

「……亡くなったんだ」

衝撃的な言葉に、私は驚いて声も出なかった。

「付き合って三ヶ月ぐらいだったのかなぁ。でも遺書も出てこなかったし、本当の理由は何もわからない。だから今話したことは後から知った事実から推測しただけで……」

拓先輩が話してた『忘れた訳じゃないだろうな』っていうのは、イジメが苦で亡くなったかもしれない先輩のことだったんだ。

「理人は先輩が亡くなってから、ショックだったのか、三ヶ月ほど学校を休んでた。でも、ある日、急にあの髪の色にして、何事もなかったかのように登校してきた。前は普通に黒髪だったんだけどね。タバコもその時、始めたのよ」

三ヶ月……。
ああ、だから出席日数が足りなくて留年したんだ。
丸山くんのことを、先生がやたら気にかけているのも元々、真面目な生徒だったからなのかもしれない。

「美弥ちゃんは、一人で悩まないで、何かあったら何でも相談してよ?」
「あ、ありがとうございます」
なつみ先輩の優しい言葉は素直に嬉しかった。
でも、私はイジメなんかに負けない。たとえ辛いことがあっても、自分から死んだりなんかしない。……好きな人と……丸山くんと一緒に居られなくなることの方が、もっと辛いから。

なつみ先輩のおかげで、丸山くんが必要以上に私のことを心配していた謎がとけた。 そして、ハッキリと私に付き合おうって言えなかった理由も。

それでも一緒に居てくれたのは、丸山くんも私と同じ気持ちだったって、自惚れてもいいのだろうか。

私から片時も離れることなく、一緒に居ることで、丸山くんなりに、私を全力で守ろうとしてくれてたのかも知れない。

本当に不器用な人だ。

「金井~まだか~?!早くしろよー」
部室の外から丸山くんの呼ぶ声がした。
「もう少し~」
私は外にいる丸山くんに叫んだ。

これだけ聞いていると、まるで彼女と彼氏の会話だ。
「私、丸山くんの彼女って、うぬぼれていいですよね?」
なつみ先輩は力強くうなずいてくれた。
「あんなことあってちょっとおかしなこと言ってるけど、理人は絶対、美弥ちゃんのこと好きだと思うよ。自信持ちな」
私はなつみ先輩に大きくうなずいて、部室を出た。


「お待たせ」
「おせぇーよ、バカ」
ドアの前で心配しながら待っててくれた丸山くんが、とても愛おしくて、私は背中からぎゅっと抱きついた。
「なんだよ、いきなり、やめろって」
そう言いながらも振り払わない丸山くんが可愛かった。

「大好き」
私は真っ赤になってる丸山くんの耳もとにそっと囁いた……。
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