不良に恋した私 ～Is there love in the air?～
２、初めてのキスは○○○の味 ～Is there love in the air?～
「む、無理だよ……もう、少し吸っちゃった……」
私の言葉に丸山くんが、スッと視線をこちらに流した。
また睨まれるのかと思ったが、丸山くんは何か言うのでもなく、無言のまま、煙を吐かずに、二、三口続けてタバコを吸った。
そして、軽く吐き出すと、空き缶のふちでタバコの火を消した。吸殻を缶の中へと入れると、おもむろに立ち上がった。
今度こそ、怒らせたかもしれない。
表情が読めず、丸山くんが何を考えているのか、全くわからなかった。私の方へと歩いてくると、私の前に立ちはだかった。
終始無言で、ジッとこちらを見つめていた。
逃げようと思えば、きっと逃げられただろう。
だけど、前髪の向こう側に隠れた寂しそうな、丸山くんの瞳に、私の心がキュッと掴まれ、その場から動けなくなってしまった。
「吸っちまった分、返せよ」
「え？」
次の瞬間。
私の目の前が暗くなり、何かが唇に触れているのを感じた。
あまりに突然の出来事に、私は一瞬何が起こったのか理解出来なかった。
でも唇から伝わるタバコのほろ苦い味に、自分が、丸山くんにキスをされているのだと気がついた。
唇が離れた後、私は丸山くんのタバコの匂いに少しむせて咳き込む。
「わりぃ……逆に、入れちまった？」
「っ！」
私はカッとなり、反射的に丸山くんを叩こうと、右手を振りかざしてみたが、その手を振り下ろすことが出来なかった。
丸山くんが、さっきよりも、苦しそうな切なそうな表情をしていたからだ。どうしてそんな目で私を見るのだろうか。
「やらねぇーの？」
叩くことが出来ない私に丸山くんは言った。
「やり返さねぇーなら、もっとするぜ？」
抵抗すべきなのは、わかっていても、丸山くんのどこか悲しげな表情に、私は戸惑い、何もできない。
うつむこうとした私を、そうさせまいとするかのように、丸山くんが、私の左頬に優しく触れた。
丸山くんにジッと見つめられ、その目に吸い込まれるように、私は目をそらすことが出来なくなった。
丸山くんの顔が、ゆっくりと私に近づいてくるのを感じた。そして、互いに見つめあったまま、彼の唇と私の唇が再び重なり合った。
しかし、唇は軽く押し当てられただけで、すぐに離れてしまった。
私がもうおしまいなのかと、心なしか切なくなっていると、丸山くんは、そんな私に優しくふんわりと微笑み、
もう一度、そっと、軽く唇を重ね合わせた。
もう少し感じていたいのに、すぐに離れてしまう唇に、私の心がキュッと締め付けられる。
丸山くんは、そんな私の気持ちを察するかのように、三度目は少し深く長めのキスをくれた。
互いを感じ、確かめ合うように、タバコのほろ苦さを忘れてしまうくらい幾度となく、私と丸山くんはキスを交わした。
何故だろう。
私に触れる丸山くんの手が、かすかに震えているような気がした。
気がつけば、そんな彼を、私は優しく包み込むように抱きしめていた。
丸山くんはキスの最後に、互いのおでこを合わせると、
「バーカ、抵抗しろよ、変な女……」
っと言って、フッと優しく切なげに笑った。
そんな丸山くんに、私は完全に心を掴まれていた。
私、本当にどうにかなってしまったのだろうか。
「教室に戻るか」
と言って、丸山くんは、私の頭をくしゃりとした。
教室に戻ると、
もう先生が来ていて、HRが始まっていた。
私はドアの前で開けるのを戸惑っていた。
すると、何故か丸山くんも後ろから、ゆっくりとついてきていた。
二年生の教室に行かなくていいのだろうか。
小声で『俺にまかせろ』っと囁くと、丸山くんは教室のドアを勢いよく開けた。
教室中の視線が痛いくらいに、こちらに集まったのがわかった。
「丸山！どこ行ってた？遅いぞ！」
始業式で丸山くんを注意していた先生が、彼の顔を見るなり怒鳴った。
担任の先生だったみたいだ。
式ではほとんど上の空だったので、気がつかなかった。
「彼女が気分悪ぃ～って言うんで、ちょっと、休んでました」
先に入った彼の後ろから、 私は恐る恐る顔を出した。
「おまえは……金井美弥（かないみや）だな？……体調はもういいのか？」
「……歩ける？」
丸山くんは、ちょっと大袈裟に私の肩に手を添えてきた。
ここはひとまず、丸山くんに話を合わせようと、私は小さくうなずく。
「そういうことなら仕方ないが、次からはきちんと伝えてから行け。……お前らの席はそこの空いてるところだ」
先生は教室の中央ぐらいの二席並んで空いている席を指差した。
あれ？丸山くん二年生じゃなかったんだ？そう思ってから、私はすぐにあることに気が付いて動揺した。
「……な？余裕だろ？」
丸山くんは席に座ると、小声で私に話しかけてきた。
動揺を隠すように、声に出さずに、私は小さくうなずいて答えた。
「……成績はもちろんだが、出席日数が足りないなんて、つまらない理由で、もう一年やり直しなどないように！……聞いてるのか？お前のことだぞ、丸山！！」
先生の言葉に、教室中の視線が再び丸山くんに集まった。
「加藤先生、可哀想～すよ。たんに勉強できなかっただけかもしんねぇーし……バカ過ぎて出席日数足りないのもわかんなかったんじゃねぇーの？」
どこからともなく、品のない笑い方で、バカにする男子生徒の声が聞こえた。
他のクラスメイトもその男子生徒と同じように、あることないことコソコソと周りと言い合いながら笑っていた。
加藤と呼ばれたその先生は、丸山くんに何か個人的な恨みでもあるのだろうか。
たとえ、加藤先生が言わなくても、丸山くんが留年生なのは、そりゃ、すぐにわかることだろうけど、何も今こんな形で伝える必要はないと思った。
何かしらのフォローをしてあげたかったが、私にはいい言葉が思いつかなかった。
「……たりぃ」
丸山くんは、みんなの冷たい視線を避けるように、机に顔を伏した。
そんな丸山くんの姿が痛々しくて見ているのが辛かった。
「おまえらも、高校は中学までの義務教育とは違う。やる気のない奴は、すぐさま辞めろ。どうせ、親の金だろうが、高い金を払って遊ぶのはもったいないぞ」
加藤先生の言葉に、教室中の生徒がざわめく。
それは、高校なんだから当たり前のことかも知れない。
でもあえてそれを先生が口にすることに、どういう意図があるのだろうか。
私には、加藤先生が丸山くんに対して、嫌がらせをしているようにしか思えなかった。
下校時間になった。
ダメだとは思いつつも、私はまた無意識に丸山くんの背中を追っていた。
正門のところで、丸山くんは二年生らしき人、二人と合流した。
丸山くんの友達だろうか。
一人は金色の短髪で耳や鼻に複数個ピアスを付けたスポーツが得意そうな男。
もう一人は肩ぐらいの薄茶色の肩までのロン毛で、手首や首にジャラジャラアクセサリーを付け、女にもてそうなチャラそうな男だった。
短髪の方が丸山くんをからかうように言った。
「理人（りひと）～二年目の一年生はどうよ？」
理人とは、丸山くんの下の名前のようだ。
「最悪！バカ、てめぇ、普通それ聞く？」
その場によくわからない爆笑がおきていた。
はたから聞いていると、そこは笑い事じゃない気がした。
ふと、ロン毛の方が私に振り返った。
「理人、あいつ何？知り合い？付いて来てねぇか？」
丸山くんがチラッと私を振り返るのがわかった。
とっさにうつむいたが、確実に私だと認識しただろう。
「知らねぇ……たまたまだろ？」
っと、そっけなく、つぶやく丸山くんのが聞こえた。
これ以上は追いかけるのはさすがにマズイと感じ、私は腕時計に目をやりながら足早に家へと急いだ。
私の言葉に丸山くんが、スッと視線をこちらに流した。
また睨まれるのかと思ったが、丸山くんは何か言うのでもなく、無言のまま、煙を吐かずに、二、三口続けてタバコを吸った。
そして、軽く吐き出すと、空き缶のふちでタバコの火を消した。吸殻を缶の中へと入れると、おもむろに立ち上がった。
今度こそ、怒らせたかもしれない。
表情が読めず、丸山くんが何を考えているのか、全くわからなかった。私の方へと歩いてくると、私の前に立ちはだかった。
終始無言で、ジッとこちらを見つめていた。
逃げようと思えば、きっと逃げられただろう。
だけど、前髪の向こう側に隠れた寂しそうな、丸山くんの瞳に、私の心がキュッと掴まれ、その場から動けなくなってしまった。
「吸っちまった分、返せよ」
「え？」
次の瞬間。
私の目の前が暗くなり、何かが唇に触れているのを感じた。
あまりに突然の出来事に、私は一瞬何が起こったのか理解出来なかった。
でも唇から伝わるタバコのほろ苦い味に、自分が、丸山くんにキスをされているのだと気がついた。
唇が離れた後、私は丸山くんのタバコの匂いに少しむせて咳き込む。
「わりぃ……逆に、入れちまった？」
「っ！」
私はカッとなり、反射的に丸山くんを叩こうと、右手を振りかざしてみたが、その手を振り下ろすことが出来なかった。
丸山くんが、さっきよりも、苦しそうな切なそうな表情をしていたからだ。どうしてそんな目で私を見るのだろうか。
「やらねぇーの？」
叩くことが出来ない私に丸山くんは言った。
「やり返さねぇーなら、もっとするぜ？」
抵抗すべきなのは、わかっていても、丸山くんのどこか悲しげな表情に、私は戸惑い、何もできない。
うつむこうとした私を、そうさせまいとするかのように、丸山くんが、私の左頬に優しく触れた。
丸山くんにジッと見つめられ、その目に吸い込まれるように、私は目をそらすことが出来なくなった。
丸山くんの顔が、ゆっくりと私に近づいてくるのを感じた。そして、互いに見つめあったまま、彼の唇と私の唇が再び重なり合った。
しかし、唇は軽く押し当てられただけで、すぐに離れてしまった。
私がもうおしまいなのかと、心なしか切なくなっていると、丸山くんは、そんな私に優しくふんわりと微笑み、
もう一度、そっと、軽く唇を重ね合わせた。
もう少し感じていたいのに、すぐに離れてしまう唇に、私の心がキュッと締め付けられる。
丸山くんは、そんな私の気持ちを察するかのように、三度目は少し深く長めのキスをくれた。
互いを感じ、確かめ合うように、タバコのほろ苦さを忘れてしまうくらい幾度となく、私と丸山くんはキスを交わした。
何故だろう。
私に触れる丸山くんの手が、かすかに震えているような気がした。
気がつけば、そんな彼を、私は優しく包み込むように抱きしめていた。
丸山くんはキスの最後に、互いのおでこを合わせると、
「バーカ、抵抗しろよ、変な女……」
っと言って、フッと優しく切なげに笑った。
そんな丸山くんに、私は完全に心を掴まれていた。
私、本当にどうにかなってしまったのだろうか。
「教室に戻るか」
と言って、丸山くんは、私の頭をくしゃりとした。
教室に戻ると、
もう先生が来ていて、HRが始まっていた。
私はドアの前で開けるのを戸惑っていた。
すると、何故か丸山くんも後ろから、ゆっくりとついてきていた。
二年生の教室に行かなくていいのだろうか。
小声で『俺にまかせろ』っと囁くと、丸山くんは教室のドアを勢いよく開けた。
教室中の視線が痛いくらいに、こちらに集まったのがわかった。
「丸山！どこ行ってた？遅いぞ！」
始業式で丸山くんを注意していた先生が、彼の顔を見るなり怒鳴った。
担任の先生だったみたいだ。
式ではほとんど上の空だったので、気がつかなかった。
「彼女が気分悪ぃ～って言うんで、ちょっと、休んでました」
先に入った彼の後ろから、 私は恐る恐る顔を出した。
「おまえは……金井美弥（かないみや）だな？……体調はもういいのか？」
「……歩ける？」
丸山くんは、ちょっと大袈裟に私の肩に手を添えてきた。
ここはひとまず、丸山くんに話を合わせようと、私は小さくうなずく。
「そういうことなら仕方ないが、次からはきちんと伝えてから行け。……お前らの席はそこの空いてるところだ」
先生は教室の中央ぐらいの二席並んで空いている席を指差した。
あれ？丸山くん二年生じゃなかったんだ？そう思ってから、私はすぐにあることに気が付いて動揺した。
「……な？余裕だろ？」
丸山くんは席に座ると、小声で私に話しかけてきた。
動揺を隠すように、声に出さずに、私は小さくうなずいて答えた。
「……成績はもちろんだが、出席日数が足りないなんて、つまらない理由で、もう一年やり直しなどないように！……聞いてるのか？お前のことだぞ、丸山！！」
先生の言葉に、教室中の視線が再び丸山くんに集まった。
「加藤先生、可哀想～すよ。たんに勉強できなかっただけかもしんねぇーし……バカ過ぎて出席日数足りないのもわかんなかったんじゃねぇーの？」
どこからともなく、品のない笑い方で、バカにする男子生徒の声が聞こえた。
他のクラスメイトもその男子生徒と同じように、あることないことコソコソと周りと言い合いながら笑っていた。
加藤と呼ばれたその先生は、丸山くんに何か個人的な恨みでもあるのだろうか。
たとえ、加藤先生が言わなくても、丸山くんが留年生なのは、そりゃ、すぐにわかることだろうけど、何も今こんな形で伝える必要はないと思った。
何かしらのフォローをしてあげたかったが、私にはいい言葉が思いつかなかった。
「……たりぃ」
丸山くんは、みんなの冷たい視線を避けるように、机に顔を伏した。
そんな丸山くんの姿が痛々しくて見ているのが辛かった。
「おまえらも、高校は中学までの義務教育とは違う。やる気のない奴は、すぐさま辞めろ。どうせ、親の金だろうが、高い金を払って遊ぶのはもったいないぞ」
加藤先生の言葉に、教室中の生徒がざわめく。
それは、高校なんだから当たり前のことかも知れない。
でもあえてそれを先生が口にすることに、どういう意図があるのだろうか。
私には、加藤先生が丸山くんに対して、嫌がらせをしているようにしか思えなかった。
下校時間になった。
ダメだとは思いつつも、私はまた無意識に丸山くんの背中を追っていた。
正門のところで、丸山くんは二年生らしき人、二人と合流した。
丸山くんの友達だろうか。
一人は金色の短髪で耳や鼻に複数個ピアスを付けたスポーツが得意そうな男。
もう一人は肩ぐらいの薄茶色の肩までのロン毛で、手首や首にジャラジャラアクセサリーを付け、女にもてそうなチャラそうな男だった。
短髪の方が丸山くんをからかうように言った。
「理人（りひと）～二年目の一年生はどうよ？」
理人とは、丸山くんの下の名前のようだ。
「最悪！バカ、てめぇ、普通それ聞く？」
その場によくわからない爆笑がおきていた。
はたから聞いていると、そこは笑い事じゃない気がした。
ふと、ロン毛の方が私に振り返った。
「理人、あいつ何？知り合い？付いて来てねぇか？」
丸山くんがチラッと私を振り返るのがわかった。
とっさにうつむいたが、確実に私だと認識しただろう。
「知らねぇ……たまたまだろ？」
っと、そっけなく、つぶやく丸山くんのが聞こえた。
これ以上は追いかけるのはさすがにマズイと感じ、私は腕時計に目をやりながら足早に家へと急いだ。
