不良に恋した私 ~Is there love in the air?~
5、あなたになら、あげてもいいよ ~Is there love in the air?~
「……まだ帰んねぇーなら、……あっちでやるか?」

私は丸山くんに促され、和室へと移動した。

「あの……丸山くん?……」
「やったことないなら、俺が教えてやるよ」
……つまり、そういうことなのだろうか。

私が知りたい丸山くんは、そういうことではなかった。
しかし、モテる男から考えると、キスしたいと言った相手が、もっと知りたいと迫ったら、こういう状態になるのが、当たり前のことなんだろうか。
恋愛経験がゼロな私には到底想像つかない状況だった。

半分は、自分から誘ったはずのこの状況に、体と頭がついていかず、私は棒立ちのまま動けなくなっていた。

心臓が痛いくらい脈打っていた。

「顔赤いけど……暑い?……脱げば?」
「て……手が震えて……」
緊張からか、手どころか体全体が震えていた。

丸山くんにそっと抱き締められた。怖くはなかった。
「震えてる……緊張してんの?」
私は小さくうなずいた。

「可愛い」

丸山くんの唇が私の耳の後ろをくすぐる。

「甘えるのは……俺だけにしろよ?」

丸山くんが私のブレザーのボタンに手をかける。
ゆっくりとボタンが外され、私が袖を抜くと、
上着はぱさりと足元に落ちた。

付き合ってないのにとか、
お互いの気持ちを確かめ合ってないのにとか、
普通なら、当たり前に気になることが、
頭の片隅にも浮かばなかった。

相手が丸山くんなら、それでいい気がした。

何故、こんなにも彼に惹かれるのか、自分でもわからなかった。

上着を脱がし終えると、丸山くんがもう一度、私に優しくキスをしてきた。

「金井……ちょっと座って目を閉じてて」
丸山くんの言葉に、不思議に思いながらも、言われた通り、私はその場に座ると、素直に目をつむり待っていた。

コトコト音がしていたと思ったら、丸山くんに棒状のものを手渡された。
「まだ目、開けるなよ?」
「なに?」
目を開けるなと言われたので、渡されたそれが何かわからない。
「……使い方わかる?」
手触りは少しゴムっぽい所とプラスチックっぽいところがあった。

「きゃぁっ!」

持っていた物が突然振動しだしたので、私はビックリして放り投げた。
なんだったのかわからず、少し怖くて丸山くんに抱きついた。

「怖い?」
丸山くんはそんな私の反応を見て、クスクスと笑っているようだ。

「何それ??」
私はまだ目を開けれずに、丸山くんの胸に顔を埋めていた。
丸山くんは、ずっとクスクス笑っている。

「知らない?なら……俺が使い方教えてあげるよ」
丸山くんにさっきのアレをもう一度手渡された。
「やだっ……怖いから」
私はもう泣き出す寸前だった。
それなのに、丸山くんは突然、爆笑しだした。
何がおかしいのか私には全くわからなかった。

「金井、目を開けてみろよ」
私は目を開けると、手にしていたのは、テレビゲームのコントローラーだった。

「え!!ゲーム!?……やろって……もしかして、このことだったの?!」

丸山くんがお腹を抱えながら、
顔をくしゃくしゃにして笑っている。

からかうにしても意地が悪いだろう。
「丸山くんのバカ」
私は怒って、丸山くんからそっぽを向いた。

「ごめん。俺は最初から、ゲームやろうって誘ったつもりだったけど、金井がなんか勘違いしてるから、反応が可愛くて、……まあ、途中からは完全にわざとやってみたけど」

「……ひどい」
私は一人でその気になってて、恥ずかし過ぎて、泣き出しそうだ。

「悪かったよ」
丸山くんは笑うのをやめると急に真面目な顔で、
私の頬に触れた。

「でも……金井も雰囲気に流され過ぎ、そんなんじゃ誰にでもやられちゃうぜ」
確かにその場の雰囲気に流されているところもあった。
でも、その相手が丸山くんじゃなかったら、このまま流されてもいいかな、なんて思っていなかったと思う。

その気持ちが『好き』ってことなら、たぶん、私はもう丸山くんが好きなんだと思う。

「……私……丸山くんがっ」
「ゲームやるか?それとも、帰る?」
私の告白を、丸山くんが遮った。
偶然ではなく、完全にわざとだろう。
丸山くんは、今はそれ以上口にするなって顔をして私を見ていた。

「ゲームする?もう、帰る?」
丸山くんがもう一度私に尋ねた。
「……ゲームやりたい」
丸山くんは私の返事に嬉しそうに微笑んだ。


それから、私たちは気がつけば、何時間も二人でゲームをしていた。

「あ、丸山くん、ずるーい!」
「ずるくねぇよ。作戦だ」
二人でやるゲームが、こんなにも楽しいなんて知らなかった。

私は母親を早くに亡くしてから、ずっと父親と二人暮らしだった。
その父親も仕事で留守がちだったから、私はいつも一人でゲームすることが多かった。

「金井、運いいな~」
「えー運じゃなくて、実力だよ」
誰かとテレビゲームなんて、初めてのことだった。

「金井、なかなか、やるな~」
丸山くんもすごく楽しそうで私も嬉しかった。
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