超レ欲ス

「……そういう浅瀬ちゃんは、なに借りたのさ」

「私?私はこれ」

すっと差し出されたそれは案の定、見たことも聞いたこともない作家の、見たことも聞いたこともないタイトルの本だった。

「うーん。よくそうやって思い切った本の選び方ができるなぁ」

「共感できない他人の視点だから面白い。そう思うわけよ。私は」

「はぁ」

「というわけで交換ね」

「へ?なにが?」

「じつは最初からそのつもりだったんだよね。お互い本を好きに選んで、借りるのは相手が選んだ方にすんの。面白そうじゃない?」

ははぁ……。なるほど。

それはたしかに、ちょっと面白いかもしれない。

「普段自分じゃゼッタイ選ばない本。そういうのが読んでみたいなって思うんだけど、自分で選ぶとそれはないでしょ?本読み仲間なんて私、嶋村くんしかいないし。けど嶋村くん、自分からは何も紹介してくれないんだもん。そこで、ひらめいたわけです。これは使えるね、って」

「でも、俺が選んだのなんて、ひと昔前のベストセラーだよ?こんなの浅瀬ちゃん、読んだことあるでしょ?」

「それがないんですよ」

「そうなの?」

「私、漫画は売れてるのとかも読むんだけど、普通に読む本はどうしてもね、自由に適当に選んじゃうクセがあって。じつはロクロベも読んだことなかったり」

「マジ?」

「はい」

「そのわりに、まえにバカにしてなかった?俺が泣いてたとき」

「だって泣いてんだもん」

「泣けるんだって!」

「じゃあ今度貸してよ」

けろっとした調子で言う浅瀬ちゃん。

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