超レ欲ス
じいちゃんは孫には優しかったが、そういった理不尽なところが当時から俺には理解できず、つねに黙って見ている立場だったわけだが、春巳はそうではなかった。
優しいじいちゃんにゾッコンラブだったハルは、ことあるごとにじいちゃんの肩を持つようになった。
「とうさんはじいちゃんのいうことききなさい」
ハルの口癖だった。
じいちゃんのすぐ下に自分が在ると思っていたハルは、親父を見下したように命令口調で話した。
本当ならそんなもの叱らなきゃいけなかったのだ。
だが、親父は今もそうだが、おとこ子どもの俺には思ったことをズケズケ言えても、おんな子のハルにはいつも一歩引いて、遠慮というか、真にうち解けて話すことが出来なかった。
おふくろがそれはやめろと言っても、ハルは聞いちゃいなかった。
じいちゃんは疎ましい親父よりも自分の味方をするハルのことが嬉しかったからだろう。
そのことに関して注意をしなかったのだ。
親父は不器用で、じいちゃんは頑固で、おふくろでは力が及ばず、俺は何もしなかった。
だからハルは、自分は間違っていないと勘違いを続けた。
俺はじいちゃんが悪い人だったとは思ってないし、そういっているわけでもない。
良識あったし良い人だった。
ただ、ハルをこり固めるのにひと役買ったという事実をいうだけだ。
一年前に亡くなるまでずっと、親父をやっかみ続けていたっていう事実を。
親父がじいちゃんの反対を押し切って、レストラン七味亭を開いたのは、俺が六歳で、ハルが五歳のころだった。