超レ欲ス
「あのー」
不意に横から第三者が割って入った。
喫茶店のおばちゃんママである。
「アイスコーヒーふたつ、お待たせしました」
やや遠慮がちに、テーブルをはさんで向かい合うようにして座っている俺たちの前にカランとグラスを置くママ。
「あ、ありがとうございます」「ど、どうも」
俺たちは反射的に礼を言ったが、当のママはあまり関わりたくないと思ったのか、そそくさとカウンターの向こうへ戻っていった。
「えーと、どこまで言ったっけ。……あ、そうだ。避けたのはキミの方で、俺じゃないというハナシだ」
「避けてないよ!」
「じゃあ切ったって言い換えてもいい」
「なにそれ」
ああ、自分でも破滅へ向かっているとわかっていながら、なぜ人はそれをとめられないのでしょうか。
「彼氏ができたから、ジャマな周りの男はぜんぶ切ったんだろ?」
途端、彼女はこれまで以上に眉間に皺をよせて目を見開く。
色付いた少女の目は、普段より二割ほど増して大きく見えた。
そして、次の瞬間。
パァン、という小気味のいい音とともに、視界が白くなった。
「そういうふうに思ってたんだ、私のこと。軽薄だね。がっかりした」
チャリンと小銭がテーブルに置かれる音。
カタンと目の前で椅子が引かれる音。
カランカランと、出入り口上部に備え付けられた喫茶店お決まりの鐘の鳴る音。
それらをすべて、まるで時間が止まったように動けずに聞きながら、なんだか俺は無性に腹が立って、テーブルに置かれたままになっているコーヒー二杯をブラックのままぐびぐびと一気飲みしてやった。