超レ欲ス

寺の石段を下りる。

まだちっこいタクは、たまに転びそうになるのでハルが手をつないでやっている。

俺はおふくろと、少し先を行く親父を眺めながら話していた。

「お父さんとハルがいっしょにお墓参りなんて、ちょっと前じゃ考えられなかったのにね」

嬉しそうにおふくろが言う。

「まぁ、じいちゃんに見せてやりたい気分ではある」

バカな返事。

でも本心だった。

今日はハルが晩メシを作る日、ということになっていた。

あれ以来、土日の気がむいた日。

ハルは自分から「今日はわたしが作る」と親父に言うようになった。

あれ――つまり初めてハルが晩メシを振る舞った日。

親父の退院した日。

ハルは我が店のオススメメニュー。

その名も「七味定食」を不器用ながら再現してみせた。

親父は泣いて喜びウマイウマイとそれを食った。

ハルはいつもの仏頂面だったが、よほどそれが嬉しかったのだろう。

それからというもの、このようにしょっちゅうひんぱんにしばしば、メシを作るようになった。


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