超レ欲ス



俺はわりと温和な性格だと思う。

弟妹になめられていたところで全然怒ったことなどないし、香田の無茶にも割合ほいほいということを聞いているし、自転車で走っていて道の端に寄せているにもかかわらずトラックに「プッファー」とクラクションを鳴らされたとしてもにこにこしていられるし、志田が教えたはずの俺の名を三日連続で忘れ去ってしまったとしても、じゃあもうあだ名でいいやー、俺はテルってのだーと優しく母が子に愛を与えるかのごとく教えなおしてやるし、さっきだって結局香田に卓球をしないという条件付きでスーパーボールを返してやる面倒見の良さを見せつけたりしたくらいだ。

だがしかし、そんな俺でも怒ったことがないのかといわれればそういうわけでもない。

俺は今、確かに胸の奥で何かピリピリと感じているものがある。俺はこれが怒り、苛立ちの類だということを知っていた。

なんか知らんがクソムカつく。

そんな感じだった。

トイレに行こうとしたのだ。

そのためには、B組の前を通り過ぎねばならなかったのだ。

だから、たまたまそれを見てしまっただけのことなのだ。

いや、目に入ったの方が正しい。

まず、近江と辻の仲良しコンビが椅子を向かい合わせてお喋りしているのが見えた。

これは大変華々しくて素敵なことである。

女の子同士のお喋りほど見ていて和むものもないからな。

(……まぁ、喋っている内容は聞きたくないものであることが多いが……)

で、しかしだ。

よく考えるとおかしなことなのに気付いてもらえただろうか。

そうだ。

志田の野郎は、近江といっしょにいるはずの志田のバカはどこに行った?

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