超レ欲ス
俺は自分でいうのも癪だが、あんまり頭の出来がよろしくない。
今年の三月。
当時まだ高校一年生だった俺は、このままでは次の新入生と同学年にされてしまうかもしれないという、危ういラインにあった。
留年の危機。
学年末追試地獄の真っ直中。
数学・古典・化学の三教科、これら一個でも単位を落とせばお終い。
さよなら俺の青春の日々よ、であった。
――いや、俺の感覚的な問題として。
そりゃあさすがに俺も焦った。
わからない頭絞って、廻りの悪い頭垂れて、時にボサボサ頭かきむしったりもした。
しかしながら、そんな絶望的状況の中、ひとつだけ安心感を与えてくれたものがあった。
それが、あの男の存在であった。
人間追い詰められれば、下を見て安心しようとするものである。
そいつは俺よりも、ふたつも多く単位を落としかけていた。
学年末追試は三度行われ、各教科ともすべてのクラスの生徒がひとつの教室で行う。
バカに余計な場所は極力とらねえという、学校側の正しくも切ない配慮であろう。
席順もクラスバラバラの名簿順。
そしてその時、俺の前に座っていたのがその男、志田由高《しだゆたか》であった。
下には下がいるものだ。
俺は少しだけホッとし、同時にやはり状況はなにも変わっていないことに気付き、嘆いた。
まあバカですから。
俺はなんとか二度目で三教科ともクリアしたが、志田は駄目だった。
なんと奴は二度のテストで一教科も単位がとれず、三度目の正直に、五教科すべてを賭けねばならなくなっていたのだ。
なんというバカなのか。
俺は「ガンバレ」と気休めにもならない気休めを抜かし、天国へ伸びるクモの糸を伝っていくがごとく、お先に失礼とその地獄を後にしたのだった。