超レ欲ス
「なんて、冗談。まさか嶋村くん、こんなに早く来てると思わなかったから。始めは本当にユタカに渡してもらおうと思ったんだけど、本人がいるのにこれはないよね。ごめんごめん。というわけで、これ、はい。貸してあげます。ロクロベで泣くようじゃ、こういうのにどういう感想もつかわからないけど」
浅瀬ちゃんは志田の胸に一度あずけた本を、あらためて俺へとつきだした。
シュウ~っとしぼみ行き場を失ったその何かはどうやら目へと込み上がってきたらしく、俺はさらにダバーっと盛大に泣いた。
ああ、そう。
今度こそ彼女が引いちゃうくらい盛大に。
その様子を蚊帳の外でただボーッと観客のように見ている志田。
失恋ではなかったといえば失恋ではなかったし、始まってなかったのだからそうともいえないといえば、そうなのかもしれない。
目の前で傍観決め込んでいる奴はそのどちらとも関わっていて、だけれどそのどちらとも彼にとっては本当、知ったこっちゃないのだった。
「ねえ、ユタカ。嶋村くんっていつもこうなの?ホント面白い人だね」
困惑気味に、それでも苦愛想笑いを崩さずにいてくれる浅瀬ちゃん。
「いや、違ったと思ったけどな……」
困惑を隠せないバカ正直な志田。
「ご、ゴメン……。俺、今日涙腺ゆるいみたくって……。あー」
そして、上向き鼻をすすってみても、一向に止まらない涙をどうしたものかあたふたしている、バカ。
ありがとう。ありがとう。
なんだか俺の頭の中には、ちゃちな紙吹雪と共に大歓声に包まれたコンサート会場に立つ自分の姿が浮かんでいた。