超レ欲ス
*
「嶋村、ごめん。頭、大丈夫か」
その帰路にて。
香田と別れしばししてから、やっと口を開いた浜野の第一声がこれだった。
「うん?ああ、平気平気。もう痛くもない」
そもそも、ほっぺたに受けた香田の右の方が効いたわけで。
「おまえこそ、そのシャツ、大丈夫か?ずいぶんハデにやったな、香田の奴も。ボタンが取れてるだけならまだどうにか着られただろうけど」
「これか。まぁ、ちょっとミシン目で裂けてるだけだし、自分でつくろうよ」
いや、そこまでしなくてもいいと思うが……。
「……ダメだな、おれ。なんか、こう、よくわからないことで頭に血がのぼっちまって……。変だと思ったろ?」
「うーん。変というか、本当に、よくわからなかったという感じか」
俺の答えを聞くと、浜野は自嘲気味にハハハと笑い、
「こんなんだから、おれっていつもひとりなんだよな」
と言って、黙ってしまった。
俺たちはふたり、横に並んで団地の中へ入っていく。半歩浜野の先導で、何も言わず。話さず。