溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
ハンカチで涙を拭いながら、優しい声色で尋ねてきた彼は、それ以上なにも言わず私が話してくれるのを待っている。

そんな彼に今の気持ちを思うがまま伝えた。

「私は佐々木君と違うの。あんなに好きだった先生のことをいつしか好きじゃなくなって、十年後の約束も、佐々木君は忘れているかもしれないって思っていた」

「……そっか」

ポツリと呟くと彼はハンカチで私の涙を拭うのを止めた。

「でも佐野が先生のことを好きじゃなくなったのは嬉しいことだし、十年先の約束を取りつけた俺のことを信じられないと思うのは、当然だと思うけど?」

私を宥めるように放たれる穏やかな声色の言葉。

けれどもっと伝えたいことがある。

「それに佐々木君は、高校時代の私しか知らないでしょ? ……高校時代の私だって、すべてを知っているわけじゃないよね? だって私たち、そんなに頻繁に話していたわけじゃないもの」

佐々木君は私のことをあまり知らないから、好きだって思ってくれているんじゃないのかな。そう思えてならない。
なのに佐々木君は、違うと言う。
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