溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
卒業式の日、返事を求められていたら間違いなく断っていたと思う。……でも今は?

好きな人はいなくて、こうして佐々木君に抱き寄せられても嫌じゃない。むしろ心地よいとさえ思っている。

それに知りたい。私が知っているのは高校生の佐々木君だけだから。今の、大人になった佐々木君のことを知りたい。

そして知ってほしい。今の私を全部。……それでも佐々木君は、私のことを好きって言ってくれるかを――。

「あの……佐々木君」

彼の腕の中で声を絞り出すと、「ん?」と甘い声が降ってきた。

モゾモゾと身体を動かして顔を上げると、至近距離で佐々木君と目が合い、胸がキュンと鳴る。

「なに?」

さらに目を細めて愛しそうに見つめられたら、いよいよ心臓が壊れてしまいそう。

「あ、あの……」

それでもどうにか自分を奮い立たせた。

「ま、まずは連絡先を交換することからはじめない?」

「えっ?」

「だってほら、私たちお互いの連絡先知らないし! ……昔も思ったの。十年後、また気持ちを伝えてもいいって言ったのに、どうして連絡先を聞いてくれなかったのかなって」
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