溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
「……うん」

それでもどうにか声を絞り出すと、佐々木君はカルテに目を通しながら尋ねてきた。

「もしかして佐野って、今は結婚して岡本さんになったの?」

「えっ?」

十年前の話をされるかも……と身構えていた私は、予想外の質問に拍子抜け。

「岡本弘子さんは、もしかして旦那さんの祖母だと思ったんだけど……」

言葉を濁す彼に慌てて否定した。

「ちっ、違うから……! おばあちゃんは母方の方だから性が違うだけでっ……! 結婚なんてしていないから」

結婚どころか恋人もいない。おまけに恋愛からしばらく遠ざかっている。

「お父さんが北海道へ転勤になって、私だけ残っておばあちゃんと一緒に暮らしているの」

「……そっか」

ポツリと呟くと佐々木君は安心した顔を見せ、肩を落とした。その姿に目を疑い、ドギマギしてしまう。

え、どうして佐々木君、そんな顔をしているの? 私が結婚していなくて安心した? いや、そんなまさか。
< 19 / 279 >

この作品をシェア

pagetop