溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
再会してから十年前のこと、一言も話してこないし彼だって忘れているはず。

特に深い意味なんてないよね。同級生なのに自分より先に私が結婚していたらどうしようって焦って聞いてきたのかもしれないし。

想いを巡らせていると、佐々木君は立ち上がった。

「それじゃ今後、岡本さんは俺が担当することになるから。……色々とよろしくね」

つられるように立ち上がり、小さく頭を下げた。

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」

おばあちゃんの担当医なら、これから何度か顔を合わせることになるよね。

そう思うとなんでだろう。……昔の記憶が蘇って胸の奥がむず痒くなる。だって彼と会うのは、あの卒業式の告白以来だから。

これからおばあちゃんのお見舞いに来るたびに、会えるかもしれないんだ。

じわじわと実感してくると、恥ずかしくなり逃げ出したい衝動に駆られる。おばあちゃんの容態を聞いて安心したから余計かもしれない。

「えっと……それじゃ着替えを取りに行ってくるね」
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